七星球

 「可愛いお嫁さんになりたいです」

将来の夢に大小なんてないはずなのに、私の将来の夢は確実に小だった。小学校卒業時に書かされる卒業文集の周りの夢たちは「プロ野球選手」「作家」「パティシエ」など大きいものが溢れていた。私のような規模の小さい夢を書いてる人なんていない。

ドラゴンボールを7つ集めたいです」・・・これよりはさすがに大きいか。


 「今年もきっと真珠かなー」親友の瞳につい愚痴っぽく話してしまう。ついジメッと話してしまうのは6月という季節のせいなのか、私の性格がねじれているからなのか。

「あのねー、そういうの惚気って言うんだよ!彼氏がいない私の前でそんなノロケ話を愚痴っぽく話すのやめてくれませんかねー」

話の話題は今年の私の誕生日プレゼントで何を貰うかという話。私には付き合って7年目になる彼氏がいる。名前は悟。悟は真面目で優しいし、素直。はっきり言って今の時代に長所としてカウントされないところしか長所がない彼氏、それが悟。悟はおそらくあまり恋愛経験がない。私もあまり人の事をとやかく言えるほど豊富なわけではないけど、それにしてもと思う事がある。

 悟は私への誕生日プレゼントは決まって「真珠」のアクセサリーをプレゼントしてくれる。いや、嬉しいよ!もちろん嬉しいんだけど6年連続6回目の真珠となるといろいろ思う事もある。そもそも何で真珠なのかと聞いた事があってその答えはあまりにも単純だった。

「え、玲奈の誕生月石って真珠でしょ?」

え、いや彼女の誕生日プレゼントに誕生月石って・・・。彼はいったい何歳の人なのか?

「彼女 誕生日 6月 プレゼント」ググって一番上に出てきそうだ。だから私は明日の誕生日プレゼントもきっと真珠なんだろうなと思っている。

悟と付き合って7年、出会ってからは20年以上。最初に出会った時の事なんて覚えていない。いつすれ違っていたのかも。

付き合ったきっかけは小学校の同窓会。

成人式の後に小学校のみんなで同窓会をしようとホテルの宴会場を丸々貸し切って行うというなかなか盛大な同窓会だった。

クラスの中心的存在ではなかった私だから、正直学年にどんな子がいたのかすら知らなかった、ましてや全員が大人びているのだからなおさらわからず、懐かしさを楽しむ同窓会だけど、ほぼ初対面に近い状態だった。

だから最初に声を掛けられた時は当然誰かわからなかった。それはきっと相手も同じだったはず、だと思っていた。


 悟に不満がある訳ではない。強いて言うなら不満がないことが不満というか。

もうすぐ付き合って7年。お互い口にこそ出さないけど、なんとなく同じ事を共有している。

「この人と結婚するのかも」

私は男性と付き合うのは悟が初めて。そして悟が付き合う女性も私が初めて。そんな2人が結婚して大丈夫なのかなと少しだけ不安になる。

悟は私の運命の人なんだろうか。一緒にいるとそんな事を考えてしまう事が増える。

悟を実家に連れて行き、両親に紹介した後お母さんにチラッと聞いてみた。

「お母さんにとってお父さんって運命の人?」

「なにあんた急に、どうしたの?」

お母さんは笑いながらも、頬をほんの少し熱くさせ答える。

「正確に言えば運命の人ではなかったかもね。でも運命の人にしたよ」

「え?どういうこと?」

「わからないけどこの世に最初から運命の人なんていないと思うの。運命の人にするのよ、きっと。結婚したって、男女が分かり合う訳ないんだもん。お互いが理解し合う努力をし続けるの。そうしてお互いを運命の人にしていくんだと思うな。出会ってすぐ分かり合うなんてそんなの空想よ」


 結局、誕生日当日、案の定悟は私に真珠のピアスをくれた。

「誕生日おめでとう!」悟はそう言ってくれたけど、私はちっとも嬉しくなかった。少しはサプライズを期待していたのがいけなかった。

「今年の誕生日もやっぱり真珠なんだね」私は皮肉をたっぷり込めて、嫌味っぽく言ってみる。

「真珠ってどうやって出来るか知ってる?」

急な質問に私は戸惑ってしまう。

「え、いやわからないけど」

「小石とか寄生虫とか、貝にとっての異物が集まって、そういう自分にとっていらないものを貝が1つの塊にするんだってさ。そんでそれが綺麗な真珠になるんだって。貝にとって邪魔なものがあんな綺麗なものになるんだもんなー。すげーよ。人間もそんな風に不安とかをさ、こんな綺麗な真珠に出来たらいいよなー」

「まあいいや!これ開けてみて!玲奈、今年で真珠7個集まっただろ?だからきっと願い叶うよ!」

「なにそれ、マンガの見過ぎじゃないの?」

目の前には二枚貝とは違う、綺麗な水色の箱が差し出された。


悟もきっと私と同じように不安なのかもしれない。結婚する事を。初めての彼女とそのまま一生を共にする事を。そりゃそうだよね。自分の事しか考えられなかったけど悟だってきっと不安なんだよね。そしてそんな不安はきっとこれからの長い人生で何度でも私たちを襲ってくるだろう。でも私たちはその度にその不安を耐えては吐き出して、耐えては吐き出そう、1年に1度、私の誕生日に綺麗な真珠として。


「来年も真珠もらえるかなー」

「あれー先週と言ってる事が変わってるー。これはまたノロケ話の予感」

「ちょっと報告があるんだけど、聞いてくれる?」

「そんな事言ってもどうせ話すんでしょ?はいはい、聞くわよ」


来年の誕生日はきっと、ジューンブライドだ。